宣教師ニコライと明治日本 (岩波新書)



宣教師ニコライと明治日本 (岩波新書)
宣教師ニコライと明治日本 (岩波新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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忘れられやすい日本近代の発掘

東京御茶ノ水のニコライ堂を訪ねる前提として本書を読んでみて、期待は裏切られなかった。骨子となっているのは、サンクト・ペテルブルグの国立中央歴史古文書館に保管されていた、ニコライ自身の40年間に渡る日記であり(著者がそれを79年に発見したのはなんという僥倖だろう)、その重要な部分が、ドストエフスキー研究者にふさわしい良質な日本語で紹介されているのだから嬉しい。
明治後期に日本人の正教会信者数は、カトリックに次いでプロテスタントを凌いでいたという貴重な事実を本書から知ることができたが、その理由の一端もまた興味深い。戊辰戦争で敗れ「古い権威の崩壊を体験」した仙台藩士たちが、「新しい日本にふさわしい新しい統一原理としての宗教」を求めて最初期の信者になったというのだ。ロシア正教はまさしく新興宗教として我が国に到来したのであり、「薩長藩閥の政府を以って不倶戴天の仇敵」となす政治的意味合いをも併せ持っていたのである。
江戸時代から日本人が潜在的に感じ続けてきたロシアの脅威、そして日露戦争。歴史の歯車はロシア正教にとって不利な方向にばかり進んでしまった(日英同盟を結んだ相手イギリスがプロテスタント国であったことも忘れてはならない)。日清戦争に勝って中国を、ひいてはアジアを見下すようになった日本は、日露戦争に勝利したのちロシアまでも「黄色い白人」として劣等視するようになった。その後の歴史は誰もが知っている。
教会関係者の手になる本でないだけに、ロシア正教への正当でまっとうな批判を読みうるところも良い。ギリシャ正教の教義とビザンチンの芸術様式を唯一の権威として無批判に崇敬したことはともかく、国教として安泰を保障されたその保守的な体質は日本の仏教界にも共通している。小冊子ながら日記以外の資料も存分に引用されており、新書の値段でこうした良書が読めることを感謝すべきだ。




岩波書店
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